詩『忘れられた人』

雨の中ずぶぬれている男がいた
コートはもうびしょぬれで
足取りは重く
元気はなさそうに見えた
初老の男性で少し無精ひげを生やしている

さっきスパゲティを食べてきたばかりさ
まだ残り香がするだろう

ポケットの中から
うさぎを二羽
しゅぽしゅぽっと取り出し
その男は呟く

こいつらも火傷を負っている
見ろ
全身傷だらけでお互いにその傷を
舐め合っているだろう
なあ
お前と俺たちと
どう違う?

え?

夢のクレーン車から
バラバラに解体された僕の鉄骨が
ドスンドスドスと
ベッドの上に
横たわり
浅い息を小刻みにして
震えていた

まだ寒いのに
背中に汗をかき
リアルな僕が携帯越しに
ゆらめいていた

朝のカーテンから
光のレーザービームが
チラチラチラチラと
繊細な糸を
網目のように
放ちまくり
脳の神経細胞と
酷似していた

朝になれば誰もいなくなる
この寝室からはいつも
夢だけが置き去りにされて
透明人間だけが
目だけ凝らして
立ち尽くしている

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