詩『蜂蜜を届けに』

蜂蜜を誰かにあげたくて
それを手渡しに行く
しっかりと布でくるんで
春の風吹き渡るやさしい日差しの中
走って手渡しに行く

蜂蜜を手渡しに行く相手は
誰か言えない
言うと
人間じゃないから と
人間が言うから

だから私は黙って
家を出てきました
家の中は今静かです
母と父は私を見兼ねて困った様子です
それでも私は構いません

あの人に
あの方へ
人間と同等の価値を有する
大事な私の友達に
蜂蜜を手渡しに行くのです

タクシーなんかは要りません
バスなどもってのほか
私は風になって
空を飛べるから
そんなものは要らないのです

あの方にはその方が
ふさわしく
喜んでくれるでしょうから
私はこの白いワンピースを
はためかせながら
海が見える高原へと
やってきたのです

来ましたよ
あなた
あなたが好きな
この蜂蜜
食べてくれるかしら

雲は少し揺れ動き
そこから数多の
光 降り 落ち
私は本当の風になって
いなくなったのです

崖の先端には
黄金色に光る
ぴかぴかの透明な蜂蜜が
風に揺れて今にも落ちそうで
消えてしまいそうな
晴れ渡った昼の午後でした

私は未来に飛び込みました
飛沫で粉々になったような
春を空に描き
どこか遠くでクレパスの芯が折れ
子どもたちの泣き声が
ここから霞んで見えました

コメントする

CAPTCHA